東京・浅草から屋形船を楽しむ前に街歩きを楽しむシリーズ。
■1回目:「あしたのジョー」の町・山谷辺りをぶらぶら
■2回目:吉原で遊郭の名残を感じる
■3回目:吉原遊女が信仰した神社
裏浅草・吉原を紹介してきましたが、今回4回目がラスト!
東京スカイツリーを眺めながら、遊郭と縁が深かった樋口一葉記念館と遊女たちを埋葬している浄閑寺までを歩きます。
樋口一葉が暮らした竜泉にある「一葉記念館」
樋口一葉は1872年(明治5年)5月2日生まれ。本名は夏子(戸籍名:奈津)といいます。
1891年(明治24年)に「かれ尾花一もと」を執筆。小説家として生計を立てるため、朝日新聞専属作家だった半井桃水(なからとうすい)に師事し、翌年には処女小説となる「闇桜」を「一葉」のペンネームで発表します。
多額の借金を抱え、父親を亡くし、17歳で一家の家計を担う立場となり、日々の生活は非常に苦しかったようです。
当時の女性が行ってた「針仕事なんて!」と、蔑視してたようで、なんとか小説家として稼げないかと模索したそう。でもなかなかうまくはいかなかったようで、下谷龍泉寺町に1893年(明治26年)に引っ越し。
荒物雑貨・駄菓子店を商うかたわら、小説を書き続けます。
この時、近くにあった吉原見物を見物したり、店を訪れる子どもたちを観察したりと、社会的見識を深めていったといいます。
翌年店を閉じて本郷丸山福山町へ転居後から、1896年(明治29年)までの14か月間の間、樋口一葉は「たけくらべ」を含め、数々の傑作を生みだしました。
「一葉記念館」は代表作である「たけくらべ」の舞台となった龍泉寺町に1961年に開館。2006年にリニューアルされ、モダンな外観に生まれ変わっています。
遊女たちはなぜ浄閑寺へ運ばれたのか?川(水運)がポイント
「生まれては苦界、死しては浄閑寺」という花又花酔の句がある浄閑寺。
三ノ輪にあるこのお寺は通称「遊女の投げ込み寺」といわれていました。こちらのお寺に遊女たちが投げ込み同然に葬られたことからその名で呼ばれたといいます。
こちらのお寺の山門はちょうど日本堤が行き止まりになるところにあります。門前の道路はかつては「音無川」があり、現在は暗渠になっています。
王子で石神井川から分流した音無川は、浄閑寺の西側に沿うように流れ、さらに山谷掘りから隅田川へと注いでいました。この音無川は台東区と荒川区の境目に当たります。
浄閑寺より下流に築かれた日本堤は、浅草を洪水から守るため、徳川家が各大名たちを動員して普請したものです。
今回の街歩きでお世話になった、TABICAの佐藤さんによると、浅草ではなく、こちらの浄閑寺に遊女たちが葬られたのは、この川があったからではないかと推測していらっしゃいました。
亡くなった人を運ぶのはとても骨の折れる仕事で、水運を使えば楽に運ぶことができます。悲しいことですが、こんなところでも江戸時代の水運が役立てられたのですね。
吉原遊女たちの悲しい運命を慰める浄閑寺
浄閑寺には2万5千人もの遊女が葬られているといいます。
その中できちんと墓石があり、単独で葬られている遊女のお墓があります。「若紫の墓」です。
こちらの若紫、江戸末期頃の「角海老楼」の遊女だった人。あと5日で年期が明け、所帯を持つ約束をしていた男性がいたそうです。
ところが、突然刃物を振り回しながら楼へ押し込んできた客が若紫を刺し殺すという事件が起きました。
22歳という若さでなくなった若紫を哀れみ、お店やなじみ客がお金を出し合い、建てたものだそうです。
永井荷風の「断腸亭日記」にもこの若紫についての記述があります。浄閑寺境内には永井荷風の筆塚があり、毎年4月30日に荷風忌が行われているそうです。
さらにお寺の墓所を進むと、大きな石積みの新吉原総霊塔が見えてきます。
こちらは名もなく葬られた遊女たちの霊を慰めるために建てられたもの。たくさんの骨壺がぎっしりと収められています。ご冥福を祈り、閑に手を合わせました。
また境内には猪の絵が彫ってある「豕塚(いのこづか)」があります。
厄災除けのため白い豕を吉原大門の傍らで飼育していたものが亡くなり、こちらに葬ったそう。「火伏の豕」といわれ、大震災や東京大空襲でも浄閑寺は焼けなかったといいます。
そういえば、墨田区にもいくつか火災を免れた神社がありました。「千種稲荷神社」や「田螺神社」、「小網神社」などです。周囲の家は焼けてしまったそうですが、ここの境内だけはといいます。
不思議なことがあるものです。
さて、4回に渡り、裏浅草をご紹介しました。すべて歩きとおすと約2時間半ぐらいかかるのでなかなかのボリュームです。
皆さんも腹ごなしに無理のない範囲で、興味をもった場所を歩いてみてはいかがでしょうか。
▼ 東京・浅草周辺の屋形船
■今回街歩きしたスポット
●台東区立一葉記念館
住所:台東区竜泉3丁目18番4号
開館時間:9時~16時30分(最終入館は16時まで)、毎週月曜(祝日は翌日休み)と年末年始休み
入館料:大人300円、小中高校生100円、20名以上の団体で割引あり
※「下町風俗資料館」、「一葉記念館」、「書道博物館」、「朝倉彫塑館」の4館共通入館券(800円)もあります。
アクセス:東京メトロ日比谷線「三ノ輪駅」徒歩約10分ん、台東区コミュニティバス・北めぐりん「一葉記念館入り口」下車徒歩約2分
▼裏浅草街歩きシリーズ関連記事
・屋形船に乗る前に裏浅草を歩く(1)「あしたのジョー」の町・山谷辺りをぶらぶら
・屋形船に乗る前に裏浅草を歩く(2)吉原で遊郭の名残を感じる
・屋形船に乗る前に裏浅草を歩く(3)吉原遊女が信仰した神社
・屋形船に乗る前に裏浅草を歩く(4)苦界に沈んだ吉原遊女の思いを拾う